●プロローグ
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《 今夜10時に 誰かが死ぬ 》
大財閥・八神家の館に届けられた一通の不吉な予告状。
探偵キサラギは、この謎を調査して殺人予告を阻止するため、助手のミハルと共に山中の洋館へと招待された。
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いわし質問を使った即興劇です。以下の設定を踏まえてキャラクターになったつもりで回答してください。
・ルール/キャラクター設定などはこちらを参照してください。→http://d.hatena.ne.jp/castle/20061031/p1
この質問は、lionfanさんのhttp://q.hatena.ne.jp/1161700535企画により立てられました。ありがとうございます。
死体を俯瞰し、キサラギはうめいた。八神麗奈の死体は心臓を一突きにされ、即死していた。静かな洋館の窓の外には、漆黒のカラスが声さえ出さずに枝に佇んでいる。暗雲はたれ込め、今にも雨が降り出しそうだった。洋館の中は豪勢な作りで、ここへ来る途中、大理石の廊下や、石膏で出来た古い彫刻などがキサラギ達を出迎えた。そんな中、この豪勢な屋敷に似つかわしくない、白目を向いた死体があった。
鑑識の男達がブラシを使って指紋を浮きだたせている。キサラギはそんな中、現場に近づくと、死体の周辺に張られたロープを跨いで死体に近づいた。
「すまない、どいてくれ」
数名が思わず道を空けたが、気づいた鑑識の一人が怒鳴った。
「ちょっとあんた、邪魔しないでくれ」
鑑識がキサラギの肩を掴んで振り向かせようとする。キサラギはなにやら胸ポケットにしまっていたあるものを取り出すと、背を向けたままその鑑識の目の前に突きだした。
「あ……申し訳ありません、あなたでしたか」
鑑識官は申し訳なさそうに、おそるおそる手を引っ込めると、キサラギは“それ”を胸ポケットにしまい込んで、死体の前にしゃがみ込んだ。
「ミハル、こいつを見て気づくことはないか」
キサラギは刺された場所とは全く関係のない場所を指さした。死体のスカートがはだけていて、真っ白な素足を晒していた。そこに何かの跡のようなものが見える。
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※こんな感じでいいのでしょうか? 情景描写はNGですか? コメントで質問出来ればベストなんですが……。
それはサック・マークと呼ばれるものであった。何者かが口で強く吸った後に出来る、内出血の痣。それが麗菜の素足についている。
しかもそれは一つではなかった。足の付け根に近い部分に幾つもついている。
わずかににじんだ血を見たミハルは、顔をしかめて、鼻をつまんだ。
「ねえ~、キサ~、この変なんか臭いよ」
ミハルは全く場の空気を読もうとしない。キサラギにとって、彼女はまるでペットのようなものであった。それもそのはずだ。ミハルは勝手に事務所に押しかけて、キサラギの“助手ごっこ”を始めてしまったのだから。
「“キサ”はやめろ」
キサラギは胸元から白い手袋を取り出すと、死体を凝視したまま、ぎこちなく装着してゆく。
突然、八神夕南(やがみ ゆな)が震える唇を開いた。
「母が……」
鑑識の連中が一斉に振り向き、それにつられてミハルも振り向く。
キサラギだけが死体にご執心だ。
「母が言っていました。この館は、先代の血で縛られていると」
場の空気が静まりかえり、まるで彫刻のようにおとなしかったカラスが窓の外で不吉な産声を上げた。洋館の冷気は蝋人形の様相を呈する死体を中心にして、広がっているかのようだった。
が、それでも空気を読めないミハルは突然言った。
「で、血が何よ」
キサラギはこの助手もどきの度胸だけは認めている。単に鈍いだけだとは思うが。キサラギは手袋をすっかり装着し終えると、内出血が赤く腫れるその場所へ、手を伸ばそうとした。が、突如、夕南が叫んだ。
「その血に!」
右手を中空に力なく差し出し、夕南は足下もおぼつかないまま、続けた。
「その血に触れてはいけません、その血に触れては……」
場が凍り付くのをよそに、キサラギは夕南を見上げた。それではどうすればいいのか。キサラギは姿勢を崩すと、死体の傍にあぐらをかいて座り込んでしまった。
ミハルはつまらなそうに足をプラプラさせた。
この二人だけが周囲の光景から浮き上がっていた。
その時だった。キサラギの耳に、かすかな声が聞こえたような気がした。それはやがてうめきとなり、キサラギの頭蓋を揺さぶるほどになった。
死体は語る。
「とはよく言ったもんだな」
キサラギは静かに目を閉じ、耳を澄まし始めた。
武士は苛立たしげに言った。
「一体何をしているんだ。狂っているのか」
死体の傍に座る探偵の姿は奇怪の一言であった。
竜ニが足を一歩踏み出した。
「私が・・・」
と言いかけた所へ
詩織が口を開いた。
「待って下さい。彼には死者の囁きを聞く特殊な能力があるのです」
と言った。
ミハルも言い添えた。
「そうだよ。先生は凄いんだからね」
やがてキサラギは立ちあがり、今度は後ろにある女神像に向けて歩き出した。それは戦いの女神アテナが、弓を持っている像であった。
キサラギはそれを入念に調べた。そしてそこにバネ仕掛けの道具を発見した。
すみません。一応、「大胆に好き勝手演じていただけたらと思います」とありましたが、勝手に“死体の声”という曲解した解釈を入れてしまい、結構羽目を外してしまいました。id:mododemonandato さん、フォローありがとうございます。
なお、ルールを遵守して、以降は出来るだけ一人物一返信で書き込みます。
(以降、『調査メモ』の動きを受けて)
昼間の招集により聞き込みを終え、キサラギは落胆していた。聞き込みの成果に落胆したのではない。10時はとうの間に過ぎ、またしても屋敷内に死体が転がった。同じだ。心臓を一刺し。そして、痕跡も残さずに犯人は姿を消している。だが、今回の死体には少し変わった点があった。以前の死体についていた、サック・マーク、即ち平たく言うとキス・マークの跡がない。死体はメイド詩織の同僚だ。
(※注:メモの複線に合わせたため殺す人物がいませんでした。ミハルは殺すには強引すぎるため、殺人対象からは除外としました)
現場は一階のホール。それも、中央にある大理石の彫像の前で堂々と殺されていた。
なかなか挑戦的な態度だが、私を怒らせない方がいい。
巨大な入り口は夜中厳重に閉まっており、大理石の現場へ到達するには二階に上がってすぐのベランダ、あるいは一階の各回廊先にある窓からから進入する他ない。だが、死ぬ前には叫び声が聞こえたのだから、犯人は階段を駆け上がって逃げる訳にもゆかない。逃げる際に階段が大きな音を立てるのは目に見えている。そこから奥坂に追いかけられれば一網打尽だ。
一階の回廊の行き止まりにある窓は老朽化が進んでいて、ネジ式の鍵が掛かっているほど古い。昼間、案内される時に、なにげに開いてみたが、それはキイキイという耳障りな音を立てていた。夜が深くなれば、さすがにあの音は響く。近くで眠っている人間のことを考えれば、あれを開くのは危険な行為だ。
今までの経過をまとめよう。昼間、招集をかけ聞いた内容をメモしてある。
庭師はのセンは消えた。今回の条件ではベランダから入ってこれるはずもない。それ以前にここへ夜中出没する動機がない。
ミハル。以前から私の事務所におり、よけいなお節介をかけているのだから、この屋敷の奥ゆかしい面々と知り合いであろうはずもない。
八神夕南。莫大な財宝目当てセンは捨てきれない。だが、なにか、“血”のことについてとやかく言っていたような気がする。それについては因習めいた何かが邪魔しているようで、ついに口を割らせることは出来なかった。第二死体発見現場に彼女はいた。
奥坂竜二。耳を澄ませたときは、コイツが第一死体、即ち八神麗奈の事を嫌っていることを知った。だが、この男が犯人であれば、第二死体発見現場にはいないはずだ。その時犯人は血を洗い落とすのに躍起なはずなのだから。
メイドの詩織。我々を呼んだ当事者である上に、仲間であった第二死体が発見されたときには、涙を流して泣いていた。もし演技であるとすれば名演技だが、俺の頭蓋に詩織の哀しい声が嫌と言うほど響いた。あれは嘘ではない。
西ノ宮武士。こいつは最初の死体発見にも立ち会った奴だが、二回目の死体発見には立ち会ってはいない。それも、こいつの想いは今のところ俺の地獄耳には聞こえてこない。何かを隠しているのは間違いないが。
キサラギの頭脳があることを思い出させた。あのホールの一室にあるシャンデリアの広間で一人目が殺されたとき、そこにボウガンが仕掛けられていたことだった。アテナの像に備え付けられたボウガンは死体の方向を向いていた。あの部屋に仕掛けと同じものが、ホールにあるとすれば。
だが待て、ホールの像は明らかにアウグストゥスの像。ケンタウルスやアポロンならばまだ分かる。つまり、弓をつがえていない。あの像とは別にどこかに射出装置があるはずなのだ。
キサラギは客室を出ると薄暗い廊下を走った。警察は翌日呼ぶ予定だったので、今回は騒ぎで集まった人間には部屋に戻ってもらった。だから、こうしてこの廊下を走っているのは私しかいない。なにか、胸騒ぎがした。推理が半分当たっているような、外れているような予感。
やがて階段を駆け下りると、彫像の前へと走り寄った。
だが、そこにはあるはずの死体がない。さすがに冷静なキサラギの額に汗吹き出していきた。
いかん、ボウガンの証拠をいち早く――。いや、ボウガンはあまりにあからさま過ぎる仕掛けだ。まずい、もしかして私は!
その時だった。
「しまった、見つかった!」
という、大音量の音声がスピーカーのような音と共に流れた。元々反響するホールのことだ。それを機械的な装置から発せられたものとは誰も思うまい。音は彫像の中から聞こえてきた。
嵌められた。私の声マネまで操るとは、やってくれる。
現場から発せられた悲鳴は、このスピーカーと同じ手段だったのだ。死体がないということは、即ち、隠したということだ。
この現場を見た犯人以外の人間は、私を真犯人だと思うだろう。まして、彫像内部のスピーカーの事など、誰も信じはしまい。
西ノ宮はこの現場にはいなかったが、この仕掛けでまた奴が容疑から外れてしまう。
奴は階段を上がる必要もなく、窓を開ける必要もなく、入り口をピッキングする必要もない。死体は殺された状態で運ばれ、悲鳴の音声を流し、その上でまたしても死体を消し、再度音声を流す。
全て奴の術中だった。
焦るキサラギの心中に、焦りとは別の、探偵の意地をかけた想いがせり上がり、口を突いてひねり出された。
「西ノ宮、私の地獄耳を甘く見るなよ」
西ノ宮の声マネに気付いたキサラギ。声の反響と共に再び目を覚ます館の人々。キサラギの運命は――。
奥坂は突進すると、呆然と立つキサラギの胸元を掴み、引き手を取って豪快に宙に投げ飛ばした。地面に衝突した瞬間、襟締めで首を絞め上げる。
「ここで何をしていた! なぜ死体がない!」
答えようにも、怪力と切れ味鋭い柔道技で締め上げられると、キサラギとしても声の出しようがない。キサラギの顔は真っ青になっていた。
「……像を」
声を絞り出そうとするキサラギに気付き、奥坂は手を離した。
「立て。下手なマネはするな」
キサラギはよろよろと立ち上がると、咳払いを繰り返し、彫像を指さした。
「あれがなんだ」
やがてそろぞろと屋敷中の人間が集まり、大音響の声の主(本当はスピーカー)を見た。
一番驚いていたのはミハルだった。
「キサ、あんたなにやってんの? 寝なさいよ」
さすがミハル。全く音声と現場の状況を把握していない。
だが、さすがに集まった人間は不審な目でキサラギを凝視した。
やっと声が戻ってきたキサラギは、呼吸を整えながら像に近づいた。瞬時に奥坂が腕を後ろ手に締め上げた。
「ギッ……」
歯を食いしばるとキサラギは痛みに耐えた。
「待て、……何もしない。俺の代わりにあんたが彫像を調べてもいい」
「彫像だな」
奥坂は手を離すと、彫像をぐるりと周りながら、調べ始めた。すると、まるで安物のおもちゃのように、彫像を縦に分断する隙間があった。
「そこをこじ開けてくれ。俺よりむしろあんたのほうが適任だからな」
キサラギがそう言うと、奥坂は顔を歪ませながら、怪力で彫像の切れ目に指を挟んで、渾身の力を込めた。
するとどうだ。彫像は前後ゆっくりと開き、そこに巨大な四角く、黒いスピーカーが現れたではないか。
「なんだこれは」
奥坂はスピーカーのスイッチを入れると、そこから耳をつんざくほどの大音量で、キサラギの声(※声マネ)が響き渡った。あまりの音声に奥坂もたじろぎ、集まった一同が耳を塞いだ。やがて屋敷が静けさを取り戻すと、奥坂は動揺した声で言った。
「これは、誰の仕業だ」
だが、キサラギはそんな異常な状況の中、次の結論を導き出していた。この仕掛けで稼げる時間は、いくら稼げたとしても数十分。もし私の言うことを周囲が信じる状況になったとしても、何らかの対抗策が練ってあることは容易に想像できる。例えば、第一死体の広間にあった、あのボウガンだ。
ボウガン?
「ミハル! 床に伏せろ」
それが精一杯だった。なぜミハルだけに声をかけたのかは分からない。だが、一人は救わなければ。
瞬時に伏せた奥坂はさすがだった。だが、他の連中がこの声に瞬時に反応できるはずもない。
夕南を貫通した弓は、薄暗いシルエットだけが映る、アテナの彫像から放たれていた。扉はいつの間にか開け放たれ、弓の角度が変わっているのが一瞬見えた。腹部を貫通し、口から血を流しながら、夕南は彫像にもたれかかって、ずり落ち、床に倒れた。
奴の狙いは、はなから夕南だった。これで遺産目当てというセンがはっきりしたが、そんなことが今ここで分かっても既に手遅れだ。
キサラギは西ノ宮の手のひらで踊るアリでしかなかった。
ミハルはかろうじて身を守ることに成功していたようだった。ただし、指示とは違い、彫像の背面に隠れるという手法であったが、ボウガンの方向と逆方向に動いたため、それはそれで正解だった。夕南の死体が覆い被さって叫んだ以外は特に問題はない。
遠くから、高笑いをする声が近づいてくる。それは次第に大きくなり、頭上に響いた。
詩織は固まったまま動けなかったが、ついには自分の足で立つことが出来ず、弱々しく床にへたり込んだ。
階段の上を見上げた。そこに、薄笑いを浮かべる男が一人、右手にはご丁寧にボウガンを持っている。よほど慎重なようだ。
「西ノ宮」
伏せたまま、キサラギはうめいた。ベランダは開放されていて、奴がベランダから今やっと入ってきたことが分かった。キサラギの推理の裏をかいた格好だった。背後には大きな満月が見えた。その満月に、細い、指先のように曲がりくねった枝が映る。それは死のへの旅路を知らせるようだった。
「……だめですね、キサラギ君。高名な君の名前を聞いて、せっかくのパーティーを用意したというのに、何ですか、そのザマは」
西ノ宮は何かのスイッチを指に持っている。あのリモコン一つで、今まで、ボウガンやらスピーカーやらを制御していたのだろう。ゆったりと、勝利を確信するかのように、西ノ宮は階段を下ってゆく。西ノ宮がボタンを面白げに軽く押しては離す度に、きりきりと弓を引くような音が聞こえた。ボウガンは既に、あちこちに設置されているようだった。
だがキサラギの脳は、キサラギを休ませようとはしない。
あのスピーカー、手元では動かせた。
先ほど、奥坂が彫像を開き、スピーカーを手動で動かしたことが脳裏に浮かぶ。
キサラギは目を静かに瞑った。その様子を見て、面白そうに西ノ宮が嘲笑した。
「諦めたのかね、つまらないなあ。でも、あなたは最後に取っておきますよ」
キサラギの頭蓋に振動が走る。諦めたわけではない。
聞こえる。
確かに、各所に仕掛けられたボウガンの音が、詳細に!
西ノ宮が詩織の方を向いた。スイッチ一つでし仕留められるであろうところを、西ノ宮はわざわざ手に持ったボウガンで仕留めたいらしい。夕南を殺して、それでも殺戮を繰り返そうとするということは、即ち、ここにいる全員の命は全く保証されないことを意味した。口封じのつもりであろう。実際ここへ全員を集中させることを西ノ宮は謀り、見事に成功させた。だが、それ以外に、西ノ宮にはなにか別の意図を滲ませていた。西ノ宮はこの狂った時間を明らかに楽しんでいたのだ。
ゆらりと西ノ宮の手が上がった。
だが、その瞬間、ボタンから意識を反らした西ノ宮を奥坂が襲った。こうなると、全ては奥坂の手の中だった。一挙に、投げっぱなしで投げると、奥坂は西ノ宮に締め上げた。西ノ宮の端正な顔が醜くゆがみ、月光が二人の決闘を見守る。だが、奥坂はあまりにも柔道というスポーツに慣れすぎていた。それが彼の不幸を呼んだ。これは柔道ではない。殺し合いの現場なのだ。
ボウガンをしっかりとロックしようとした瞬間、奥坂の勝利の確信に反して、その身は宙に数センチ浮き上がった。もう少し決断が早ければ良かった。奥坂はそのまま横へ吹っ飛ばされると、うずくまった。
腹部に冷たい鉄柱が突き刺ささって、床は赤黒い色で覆われてゆく。何度も、もんどり打って痛みから逃れようとするが、やがて夕南の血と奥坂の血が混じり合う頃、奥坂の意識はすでにこの世にはなかった。
西ノ宮は息を荒らげて立ち上がり、怒りに歪んだ表情で奥坂を見、既に意識のない死体に向かってボウガンを放った。何度も奥坂の死体が波打つ。
満足したのか、西ノ宮はキサラギの方へと振り返った。
その瞬間、西ノ宮の目には一瞬だけキサラギが映った。まるで、アテナのごとくボウガンを構えたキサラギの姿が。
西ノ宮の視界を鮮血が染めた。静かな館に、夜泣きのカラスの声が一羽響いた。月は赤く染まり、全ての血を飲み込んでしまうかのようだった。ゆっくりと斜めに傾き、狂気の男は倒れ込んでゆく。だが、西ノ宮は、スイッチにある全てのボタンを、倒れるまさにその瞬間に、力強く押し込んでいた。
仕掛けられた全てのボウガンの風を切る音が館に響き渡り、カラスの羽根がバサバサと音を立てて遠くへ消えてゆく。雨のように降り注ぐボウガンのなか、呆然と座ったまま中空を凝視する詩織と、うなだれて気を失っているミハルが目に飛び込んだ。キサラギはミハルのところへ走ると、抱きかかえて背中と彫像の間に包み込むようにして必死に鉄の雨が止むのを目を閉じて待った。
幾千もの音が交差し、やがて音が聞こえなくなる頃に、キサラギは静かにまぶたを開いた。
「ミハル、無事か」
キサラギは辺りを見渡した。気がつけば、床は真っ赤に染まり、血の絨毯が赤い月を招き入れているかのようだった。ミハルは気を失ったままだった。
「詩織は!?」
座り込んだままの詩織には全くボウガンは命中していないようだった。だが彼女は意識を宙に向けたまま、呆然と座り込んだままだった。
死に際の西ノ宮は、さすがにこの三人に的を絞るほどの余裕を残していなかった。
残った謎解きへ。生き残りは詩織、ミハルだけです。翌日、鑑識の方々がやってきたようです。
【矛盾】
- ボウガンの刺さった矢を抜く時間、抜けた後のボウガンをどこへ処分したのか。血が滴るはずである(残した謎としてはぎりぎりセーフか?)。
- キサラギの先を読んだ、西ノ宮の心理戦のはなぜ可能だったのか(すみません)。
- いきなり弓矢の角度が変わるアテナ像(すみません)。
- リモコンなどという「ドラえもん」的兵器を登場させ、お茶を濁す(すみません)。
【八神夕南】
欲と権力、狂気に取り憑かれた男、西ノ宮の手によって倒れる。彼女の死後、西ノ宮は全てを手にするはずだった。彼女が死んだことにより、序盤の“血”に縛られる意味は闇に消えてゆくのか……?
【奥坂竜二】
西ノ宮と格闘中、ボウガンで腹部を打たれて死亡。
【メイドの詩織】
何かをを知っているかもしれない。実は、西ノ宮の隠された血の話を知っていた。あとはサック・マークと絡めて……。
【西ノ宮武士】
権力を手にすることなく、野望にまみれて死亡。彼は元々外部の人間であり、血の事はしらない。ただし、それは本人の認識上の話。
ミハルを現場に残し、キサラギは詩織を抱えて客間に誘った。そこにあったソファーベッドに詩織を座らせ、彼女の肩を抱いた。
三時間後、漸く落ち着きを取り戻した詩織は静かに語り始めた。
「実は奥様はエイズにかかっていたのです。旦那様の死因もそれでした。そして西宮氏は奥様と・・・
そうかそれでお嬢さんは血に触るなと・・・
自分もエイズにかかった西宮は自暴自棄になって犯行に及んだのか。二人の関係を知ったメイドを殺したのも西宮だったという訳か。
しかし、彼はどうやってあんな仕掛けを作ったのか・・
「それは西宮氏が家を改装するといってリホーム業者を呼んで・・・
そういえばその業者は今思えばおかしかったような。
真夏でも全身真っ黒な服を着ていて、西宮氏はその人を「マエストロ」と呼んでいました。
「まさか、奴が!」
とキサラギは叫んだ。
詩織は
「知っていますの?」
聞いた。
「ええ、奴こそ真の黒幕だったのです。
本名は誰も知りませんが、裏社会では、「シュバルツ・マエストロ」(黒い巨匠)、或いは「カイザー・ヒュレ」(地獄の皇帝)などとも呼ばれています。奴が西宮氏をそそのかし、凶行に手を貸したのに違いありません。
《 今夜10時に 誰かが死ぬ 》
大財閥・八神家の館に届けられた一通の不吉な予告状。
探偵キサラギは、この謎を調査して殺人予告を阻止するため、助手のミハルと共に山中の洋館へと招待された。
そして、惨劇の幕は開く・・・・・・。